変異が有利か不利か?

ちょっと、タイトルのつけ方が分からなかったのでこうなっちゃいましたが

まったく大したことではありません。

進化の過程でゲノムに変異が導入されたとした場合に、

その変異が有利だから残ってきた、

あるいは不利だったから残らなかったなどという説明がなされます。

この説明自体は特に間違っているとは思いませんが、

人間の思考としてどうしても目的論的進化を考える傾向が強いので、

このような説明のし方では誤解を生じやすいと感じます。

 

これは、たとえば人間が最も優れているという論理にもみられます。

これは論理的には何の証明もないのですが、

なんだか人間は万物の霊長であるとするのが

思考的にも思想的にも何となく収まりが良いってことです。

話しは横にそれますが、

かのジム=ワトソンでさえ、黒人よりも白人の方が生物学的に優れていると

心の底から思っていたということからもこの手の偏見の根深さは分かります。

で、ヒトが優れているという「論理」の根拠として脳の巨大化がしばしばとり上げられます。

というところで、人は無意識に「脳の巨大化はそうでないものに比して優れている」とします。

だから、自然に脳が肥大化する方向に進化して人間となったと考えがちです。

いや、この考え自体はそれほど間違いではありません。

しかし、一歩間違うと目的論的な思考へと傾いてしまう。

 

ではどう考えるのか?なのですが、

たとえば脳については、

直立歩行するように「たまたま偶然に」なって、

そうすれば重たい頭部を持つことが可能になった。

別の言い方をすれば、首を前に突き出して歩く(たとえば四本足の動物など)では、

首がある程度以上の重さの頭部を支えきれないから、

そこに淘汰圧がかかって頭部の重さ(大きさ)が制限された、

しかし、直立歩行するようになりこの制限が緩和されると

頭部は大きくなるように中立的に変化していった。

で、この「頭部が大きくなる過程」で大きい頭部がどれだけ生物学的に有利かということですが、

大きくなった即ち有利になったと考える論拠が見当たりません。

もちろん、現在のヒトの知能を支えるのは脳の大きさであろうことはたぶん正しいでしょう。

でも、それは言語や知能を獲得してのことであり、

直立して以降の頭部の巨大化に生物学的な優位性が、

何かあるのかも知れませんが私にはよくわからない。

でも、頭部が大きくなったことと進化上有利であることの相関を

直感的に認めてしまう傾向にあるのが人という訳です。

洋の東西、思想信条,宗教などを問わずこの手の価値観は人間に存在するように思いますので、

たぶんこの思考形態は生得的な何かであろうとは想像するのですが

実際のところはまったく分かりません。

もし、生得的なもの、すなわちゲノムに書かれているものだとしたら、

それが人種を問わずに残っているという事実は(事実だとしてのことですが)

その性質を維持する何らかの圧力を受け続けていたことにはなるでしょう。

 

で、話を戻しますと、変異が有利だから残ってきたという説明よりも、

「残ってきた変異を『有利だったから』と説明している」と解説する方が

より誤解が少ないことになるということです。

この問題は以前にも何度か書きました(https://hashimochi.com/archives/4963)。

なのになぜまたこのようにわざわざ取り上げているのかと言えば、

新聞の科学欄やテレビの科学番組をはじめ、

おそらく理科の教育者や下手をすれば生物の研究者までもが

生きものの形や行動に「意味づけ」をする傾向が目に余るからです。

以前にも書きましたがたとえば「赤とんぼの問題」を考えてみます。

晩夏の赤とんぼは尻を太陽に向けて岩にとまることの説明に、

太陽に体軸を向けることで太陽光を浴びる面積を細小にすることができ、

その結果として体温の上昇を抑えることができると解説されています。

たしかにこの説明は間違っていないでしょうが、

実際には「面積を細小にするために」太陽に尻を向けてとまるという目的論的解釈ではなく、

そうしなかった種(個体?)は絶滅して、

結果として太陽光と体軸を水平に保つ種が残ってきたと解釈されるべきなのです。

「されるべき」と書きましたが、これが真実かどうかは分かりません。

ただ、現在の総合説の考え方ではこれが正しいとし、

逆に合目的的考え方は必ず否定されるということなので、

科学的に正確を期す場合の説明としては

「〜するために変化した」とする説明は間違っているとせざるを得ません。

 

新しい環境には外敵がいないので繁殖しやすいという場合にも、

その場所に外敵がいないからそちらに動いた(たとえば海からの上陸などにしても)ではなく、

あくまでも可能性のあるいろんな場所で繁殖を試みたが、

結果として外敵がいない場所での繁殖がうまくいき

結果としてたとえば海からの上陸を果たせたということなのです。

これは昨今の外来種の問題を考えると分かりやすいでしょう。

外来種は日本の固有種を駆逐し勢力を拡大していますが、

その目的のためにわざわざ船に乗って日本に来たという人はいないでしょう。

それと同じことです。

 

進化(中立説と自然淘汰)の考え方は、

理屈では分かりますが直感的にはついていけないことが多いのですが、

その背景には日頃の説明のし方というのも大いにあるような気がします。

あくまでも「生き残るためにそうなった」のではなく「そうなったから生き残った」のです。