先入観(あるいは奈良の大仏)
先日、「最後の一行」にまつわる雑感を書いた。
https://hashimochi.com/archives/4659
今回もそれにからむ話である。
「この本は最後の一行が面白いよ」と薦められて読んだら、
予断が強すぎて楽しめないことの方が多い。
同様に、「意外な犯人」と言われて読んだらまず楽しめない。
「意外な」に異様なまでに警戒して読み進めるからだ。
有名な「Yの悲劇」も、ある台詞を読んだ時に犯人は分かった。
本来ならその段階では絶対に分からないはずなのに、
「意外な犯人」と言われて読んだものだから、
消去法で「こいつしかいない」となったわけだ。
犯人は当てたものの物語を楽しめなかった。
おそらく、アクロイドにしてもオリエント急行にしても
古今東西のありとあらゆる名作はすべて同様だと思う。
薦める人は、強い動機を持って推薦してくれるのだが、
その動機がくせ者なのだ。
もちろん、誰もトリックや犯人に触れることはしない。
でも、その「推薦したい」という願望からにじみ出る説明が、
トリックや犯人を物語っているのである。
人にものを薦めるのって本当に難しいと思う。