進化のきっかけ

進化のきっかけなんて、本当のところはおそらく誰にも分からないだろう。

どうしても現存の生物の知見しかないから、

その当時の事実は推測するしか我々にはできないのだから仕方ないと思う。

 

そこで、やはり現存の生物の知見、

そしてそこから推測される合理性で科学的な議論がなされる。

しかし、その合理性というが果たして本当に正しいのか?というのが昨日の議論である。

何も、合理的なのはすべて疑わしいなどとうさんくさいことを言うつもりはない。

しかし、合理性に重きを置かなければ、

考えうる論理的な可能性はすべてが等価の選択肢にあげられるだろうと思うのだ。

 

たとえば隣の研究室で行なっているイチジクとコバチの共進化を例に考えてみよう。

コバチと、コバチが共生するイチジクの間に共生関係があり、

コバチとイチジクの種分化が互いに影響しあっているとき、

それぞれの種分化はどのような機構で起こっているのだろうか?ということである

(説明が難しいので詳しくはラボのHPで研究内容を見てください)。

ここで、コバチの種分化のきっかけとしては

宿主であるイチジクを見分ける匂いの受容体の変異にあるとしよう。

この考えは、まあ常識的に見ておかしいとは思えないのだが、

例えば別種のイチジクにある種の確率で偶然入り込み、

普通ならそこで発生できずに死んでしまうコバチが、

代謝系か何かの小さな変異が生じてそのイチジクの中でも発生が可能となれば

そのイチジクでも子孫を残せるだろう。

こう考えると、種分化のきっかけはこの代謝系の変異であって、

その後に、「匂いにより宿主を見分ける個体がより生存に有利である」という

純粋な自然淘汰によって匂いの変異を獲得したとしても

(議論ははなはだ不足ではあるが)論理的には別に構わないだろうと思うのだ。

 

で、私が気になっていることは、

このように様々な可能性が等価である場合に

実際に起こった種分化のきっかけをどうやったら知ることができるのか?である。

現存する二種の匂い受容体遺伝子を入れ替えたら

匂いがきっかけかどうか分かるというふうによく議論されるのだが、

それは、現存する二種がその分子機構で宿主を見分けていることを示すに過ぎず、

それが進化のきっかけであるという議論にはならない。

というのは、その遺伝子だけ変化して、

それ以外の遺伝子は変化せずに現在まで残っているという前提をおかなければ

この議論は成立しないからである。

問題は、その本質を解く方法が(少なくとも私には)見当がつかないのだ。