関係性

今日も一日完全に引きこもって風呂で読書をしていました。

風呂場の扉と窓を開けてぬるめのお風呂に座ると

腰から下は少し温かいけど上半身は引き締まるくらいの寒さで

露天風呂に入っているような感じです。

さて、かたちを表現するのに関係性なんて言葉を使うからよくわからなくなります。

そこで私はキリンの話をよくします。

大昔のキリンは首が短かったのに、ある時に首の長いキリンが出現し、

その後、何らかの淘汰圧がかかって短い首のキリンは絶滅したってお話です。

 

キリンの首の長さを変化させる遺伝子が一種類とは思えませんが それは一応不問と致しましょう。

そこで、では何らかの遺伝子変異が生じて首がいきなり伸びたときに そのキリンは生存できるのかということです。

レクチャーなどでも話しますしいろいろと書いてもいるので

この内容はご存知の方も多いかもしれませんが

要するに、いきなり首だけが伸びたキリンは生きられません。

まず、あんなに高いところまで脳みそを持ち上げるためには

血圧を高くしなければ脳貧血を起こして立ち上がれないでしょうし、

現実に知られている哺乳類ではキリンの血圧が一番高いということです。

さらには、200を超える血圧に耐えられる血管でなければならないし、

肺も大きくなければ吐いた息をもう一度吸わなければならないようになる。

もっと他にもいくつもあげられますが、要するに、ひとつの変異が偶然起こっても

それが生き物として成立するには他の変異も同時に起こらなければならないってことで

心臓や肺や首を作る遺伝子が直接(物理)的な関係性を持っていなくても

生き物としての働きの上で関係せざるを得ないわけで、

これもゲノムを成立させるためには立派な関係性であると言いたいのです。

 

遺伝子の関係性と言えば遺伝子産物であるタンパク質間の物理的相互作用を

分子生物学を学んでいる人たちは思い浮かべますが、むしろそうではない場合が多いでしょう。

だからこそ、遺伝子を交換しても変異を導入しても種が変わることはないのです。

種を変えるためには他にも変わらなければならない遺伝子が必要であり、

しかし、それらの遺伝子は特に新たな変異ではなくても構わないということです。

分化に入る時期を少し遅らせて細胞分裂を少し長い目に維持することで

細胞数が増えてその組織の大きさが変化しますよね。

哺乳類では終脳の分化時期が遅れたことで終脳が肥大化し大脳半球を作りましたが

そこに本質的な変異が必要ではないことはご理解いただけると思います。

では、鳥類に変異を与えて終脳を大きくしたらどうでしょう?

おそらくその他の組織期間との整合性が付かないから そのような変異はゲノムの中に受け入れられないでしょう。

ゲノムの中に受け入れられる変異とはゲノムが維持する関係性を壊さない変異に限られますし、

それを「遺伝的多型」と呼びますが、これは個体レベルの差と認識されるものです。 近くでは私とあなたの差であり、大きく見ればアジア人とヨーロッパ人の差でありますが どっちにしてもこれはヒトゲノムとして閉じるものです。

 

ゲノムとは、その種を表す概念であり体系です。

だから、ゲノムが変わるということは新しい種が確立することに他ならず

したがって、種間変異とは単一遺伝子の変異ではありません。

いや、種間くらいなら遺伝子単位の変異でも生じうるかもしれませんが

カンブリア爆発で起こったように門のレベルでゲノムが一斉に成立することは

遺伝子単位の議論では到底役に立ちません。

なぜなら、個体発生において重要なのは個々の遺伝子が持つ働きなのではなく

個々のの細胞がどのような社会を作り、どのように行動するのかが重要なのですから。

もちろん遺伝子はそれぞれの細胞の中で働きますし、

あらゆる働きももとをたどって行けば遺伝子に突き当たります。

数万人で人文字を書いたときにはそれぞれの人が個体発生でいう細胞です。

その人をそのように並ばせる高次の仕組みがなければ人文字は完成しません。

しかし、その人文字を構成しているのは個人ですし、

プラカードを持ったり反転させたりするのは個人の手であり

高次の情報を知るのは目であり耳である訳です。

隣の細胞と話をしなければならないかもしれませんが、

その時には口も使うだろうし、時には表情も意味を持ちます。

しかし、では手を調べて人文字が形づくられる仕組みが分かりますか?ってことです。

手や目や口などはおろか、個人を調べても形づくりは理解できません。

遺伝子の働きで生き物を理解しようとする分子生物学は細胞の中に閉じる学問大系です。

私が、分子生物学では発生を理解できない!と主張する理由はこれなのです。

また、カンブリア爆発に関して議論したいと思います。

次の「かたちの会」ではこういう話を双方向でしましょうね。