マニアと素人(あるいは上達の度合い)
最近、講義や講演で人に話すことで悩んでます。
以前は、人に話すことが得意だったと思います。
一部の人からは研究館で一番説明が上手だと言われたこともありました。
しかし、最近ではどうも話すことが難しいと感じています。
話しながら、あまりのたどたどしさに自分でイヤになることもあるくらいです。
話は少し変わります。
何かのマニアについて、ここではミステリマニアについて考えてみましょう。
「この作品のトリックは、その見事さが初心者には分かりにくい」と
マニアを自称する人が語ることがあります。
さまざまなミステリを読み込んできたマニアだからこそ、
玄人好みする微妙な部分に強烈に魅かれたりすることはあるでしょう。
クリスティの有名な小説「アクロイド殺し」のアンフェアさとは何か?について考えると、
その「アンフェアさ」っていうことの前提に「ミステリとは」って暗黙の了解がなければならないわけで、
まあ、ここまで極端なのはマニアでなくてもある程度は理解できるところかも分かりませんが、
でも、ミステリを初めて読む人が同じ様に感じるかどうかと言えば少々疑問ではあります。
現実に私は高校生の時にこれを読んで、特段何も感じませんでしたから。
で、ミステリマニアの編纂する短編集などを見ると、
マニアが見て驚くようなものを選んでいる、
あるいはマニアでも「これは知らないでしょ?」なんてモノを選んで優越感を得るみたいに、
あまりにマニアックな興味で編まれているために、
我々のような素人には「何が面白いのかわからない」ということだって現実に起こりえます。
マニアの人たちがミステリを読み始めた時に覚えた喜びと、
ミステリを読み込んでから覚える喜びではその質が変わってくるのは仕方ないことでしょう。
「チャーリー退場」を指して有栖川有栖は、
「斬新なトリックや意外な犯人の設定、意表を突く動機、という観点で評価したら、
あまり高得点にはならないが、手がかりの質と、それがおいてある場所、順番・・・・・すごくうまい、
その中身、順番、感覚、美しい。本格ミステリとして、完成度がすごく高い」と書いていますが、
これなんかはミステリマニアであり、かつミステリ作家であるから思うことなのかも知れません。
で、話を戻しますが、
たとえばかたち論について、当初はわりと単純に考え、明確な言葉で説明してきました。
あるいは原腸形成運動についてもカエルとイモリの違いを明確に話してきました。
しかし、何年もずっと考え続けていると、
当然のことですが、ことはそれほど単純明快ではないことに気付きますから、
これまで話をしてきた論理のほころびに目が行きます。
もちろん、そのほころびは非常に「マニアック」なものであり、
全体としては微々たることなのですが、
それが気にかかり始めるとこれまでの様に無邪気には話を進められなくなります。
オーガナイザーという言葉を捉えても、
その本質的な問題点は何も変わらないにも関わらず、
考えに考えを重ね始めると、おいそれとその言葉を使うことができなくなります。
ただ、聴いている人は「初心者」であり、マニアの興味などに関心はないわけで、
微に入り細を穿つ議論にはまったく興味を持っていないでしょう。
なぜなら、その興味とはまさにマニアの興味だからです。
最近では、これまで普通に用いていたスライドを使うことに抵抗を感じ始めています。
微妙に正確ではないという理由の他に、
発生学の観点から話している内容であっても、
進化の観点から見たら「このスライドでは大切なところが伝わらない」と思うからで、
しかし、「その大切なところ」ってのは、実は「初心者」にとってはどうでもいい、
というか、発生現象として一義的にはどうでもいいような、
まさに重箱の隅をつつくような話だったりするのです。
ちょっと頭を切り替える必要が生じてきた様に思いますが、
なかなか上手くいかない。
例に挙げると失礼に当たるかも知れませんが、
宮田先生のお話は非常に面白いのですが、
「一般の方にはこの面白さがまったく伝わらないのだろうなあ」と思うこともしばしばです。
要は、ある種のマニアックな興味が一致しない人が聞いても、
その問題意識すら持てないだろうというところの面白さで、
たまたま私が宮田先生の興味と近いところにいるからこそ
あのお話を面白いと思うことができているのだろうと思っているからです。
まあ、これに関しては、私の思い込みという可能性もあって、
皆さん楽しんでお聞きなのかも知れません。
私の話す内容も、研究室に一年以上いる人たちには、
日々洗脳を繰り返していますので理解してもらえます。
この面白さをみなさまに伝えたい、しかしどう伝えていいのか分からない。
これが今の悩みです。
私の話をお聞きいただく前に、このコラムをすべて読んできて頂けたら、
かなり違うとは思いますが、そんなことを要求するわけにもいきませんからね。
精進します。