調和

調和とは、互いにへりくだる事であると言ったら否定されるだろうか?

ただ、少なくとも日本人が伝統的に考える事とは

互いに一歩ずつ引いて、互いの事を慮った上で成り立っていると思う。

そして、実際に自身が体現できているかという疑問は残るものの、

私にはその考え方を受け入れる事ができる。

だから、自分の考えだけを主張し、

それを他人に強いる思想を受け入れられない。

そのような人物は苦手であり、好きには今のところなれそうにない。

 

では、日本以外の調和とはどういうものだろうか?

それを明確に述べる事は私にはできない。

なぜなら、一般論としてそれを感じた事もなければ述べる知識も持ち得ないからだ。

まあ、一般論というものほど何においても意味をなさないものはないと言われるのだから

まあそれはそれでいいのかもしれない。

ただし、究極の一般論というものも存在しうる可能性は残されている訳で、

それを今の時点で全否定するつもりもない。

ただ、今の私にとっての究極の一般論とは、宗教が目指している先のような気はしている。

そして、そこにはある意味での思想統制のような、

絶対的価値観の統一がどうしても必要になるように今の私には思えるのである。

多様な価値観を認めつつの調和というものがどう成立するのか?

自然を学ぶ一つの目的としてこの疑問はあってもいい。

まあ、それが相容れるのかどうなのかは今は分からないのだが、

自然の多様性を考えるのも一つの方法ではあろう。

 

この場合に、自然を多様としてその全体性をどのような視点で捉えるのかが

問題の根幹に横たわる大問題のようにも思う。

各論的に弱肉強食を唱える方法もあるだろうし、

同種を守るための生存戦略も生き物は有している。

それらの視点からの生態学的観察では要素還元主義を払拭できないだろう。

では、究極的に大きく切り取る・・・

いや、切り取る事なく全体性を見てみようとする考え方はある。

しかし、この手の究極の一般論化は多くの場合にまやかしの方法論として用いられる。

なぜなら、各論をすべて否定するところにその根源をおくからである。

すなわち、分子生物学の敵対的概念としての構造主義生物学が

その思想の優れた点をすべて覆い隠し敗北を喫したようにである。

 

日本人の伝統的思想的美徳は、相手のことを慮るところにあると言って否定はされまい。

もちろんそれを日本人の弱点と称して自虐的に論じる流れもあるが、

それは本質の議論から逃げているというか、

自虐的論調がエリート的だと錯覚してきた一部の近代日本的思想体系が、

いや、思想体系というよりは一部の流行的な価値観というべきかもしれないが、

私にはこの流れが自己のアイデンティティを消失させた上で

新たなものを構築しなかった「失われた戦後思想」の象徴にも思える。

 

日本思想はいわゆる形式美の様相を呈していると思う事も可能だろう。

自己主張は己が強くさえあればある意味非常に簡単な事であろうが、

相手の事を慮る考え方は互いの関係性を維持できなければ成立しない。

もっと簡単に言うと、相手も一歩下がってくれるからこそ成立する事はいわば自明の理である。

要するに互いの関係性という「形式」の存在が前提になければならない。

そこに、全く異なった価値観を持つ人たちの思想が入ってきた場合に、

日本の伝統思想の上にそれを加えて新たな思想を作る事ができていないというか、

質的にあまりに異なりすぎている故に、

あるいは、その思想体系が正反対である故に、

それまでの思想を完全に脱構築させられているように思えるのである。

自分の主張をする人と、一歩下がる人が交渉をしたらどうなるのか

火を見るよりも明らかであろうと思う。

 

ただし、では日本人だけが排他的思想の持ち主かと言えば、

ヨーロッパでもアメリカでも、あるいはその他の諸外国でも、

下手をすれば日本よりも排他的な土地はあると聞く。

どのような思想を持とうが、

生きる事とは関係的、かたち論的でなければならないからである。

だからこそ、いま現在の環境というか、

自分が生きている周囲との関係性が変化する事に恐れを抱くのは当たり前なのだろう。

だから、人はどうしても保守的になる傾向にあると思う。

逆に言えば、現時点に大きな不安定感を覚えない限りは

保守的であろうとするのは体系としてあまりにも当然の事だろうと思う。

 

問題は、異なる体系同士の関係性の構築である。

思想統一がもっとも簡単な方法であろうし、

あるいは完全に相手の思想信条を根絶する、

相手の存在すらをも根絶やし(ねだやし)することは

現実に世界中で行なわれてきたあるいは、

そのせめぎ合いが国際社会の関係性といってもあながち間違いではないだろう。