生物学の勉強

私たちが大学生の頃には決まった教科書がなかった。

発生学と銘打った教科書だけでも書店には何冊も並んでいたし、

同様のことは生理学にも生化学にも言えた。

また、教科書検定などあろうはずもないので、

教科書によって書かれている内容はさまざまだった。

ある教科書には詳しく書かれていることが

別の教科書にはまったく書かれていないなんて普通のことだった。

だから、たくさんの本を読んだし友人や先輩とよく話をした。

知らない知識が多すぎて、それを補う為には話すことは必要だった。

教科書は、執筆者によって内容はおろか哲学まで異なっていた。

生化学や分子生物学に傾倒した発生学の教科書もあれば、

「ウニが語りかけてくれます」みたいに現象を重要視する教科書もあった。

そこから、科学哲学を同時に学ぶことができたものだ。

 

しかし現在は、「細胞の分子生物学」と「エッセンシャル生物学」の二冊で

生物学の勉強は事が足りるようだ。

この二冊(のうちの一冊)を勉強していれば

大学院入試の問題は解けるし、

入試問題もこの二冊の範囲を決して超えないようである。

そして、最も私が問題だと感じているところは、

この二冊は両者ともに「分子で生きものはすべて分かる」と書かれている、

いや少なくともそう書かれているように誤解される書物なのである。

もちろんこの手の教科書はあって良い。

しかし、思想がそれだけに限られることは良くないと思う。

この二冊と同じ知識を入れたとしても、

違う人が書けば全く違う思想書ができるはずである。

それを、結果的にすべて排除してどうするのか疑問である。

同じ知識も、ことなる関係性で語られると異なる景色として認識されるはずだ。

それこそが科学として最も重要なことではないのか?

いろいろと理由もあろうが、

大学生という若い人からあらゆる可能性を取り去ってしまうことに

危惧を覚えないわけにはいかない。