準絶滅危惧種・いもり
多くの研究者がイモリを業者から購入して実験に用いています。
私たちも最初はそうでした。
聞くところによると、研究者が発注をかけてから
業者が様々な場所にお住まいの「取り子さん」にイモリの採集の指示をするそうです。
で、使い終わったイモリを殺すのは忍びないので
業者に送って元の場所に戻してもらうよう交渉したのですが、
イモリを使い終わって返すのは購入してから半年は経っていますので
業者自身も、そのイモリをどの取り子さんに頼んだか分からない上に、
取り子さんもどこから採集して来たのか分からないということとなり、
結果的にはイモリを研究室で処分するしかないということになりました。
しかし冷静に考えて、たとえイモリが絶滅危惧種ではないとしても、
自然に生息するイモリを年に数百匹〜数千匹も採集し、
それを戻さないという事だけで確実にイモリを減少させる事となるでしょう。
その上、このところの環境破壊で両生類の数は激減しているとも聞きますし、
国の基準でも「準絶滅危惧種」に指定されているという事なので、
もう少し考えて実験に用いなければならないと考えました。
私たちの実験ではイモリの卵を使い、親イモリの命を奪う事はありません。
だから、自分たちで採集に行き、次の採集の時にそれを戻してやるということで
少なくとも親イモリの数を減らす事は避けられそうです。
さらに毎回異なる場所から採集すれば
同じ場所のイモリは数年に一回だけ採集すれば良いという事になりますので
自然に産卵して数を増やす事も問題はないと思えます。
さて、そうこう考えている時にふと変な事を考えました。
イモリは一年で死ぬ事はありません。
また一匹のメスイモリは一回に100〜200個の卵を産みます。
ということは、たとえば一匹のメスが3年間卵を産むとすれば
500個くらいの卵が計算上は孵る事となります。
また、単純計算で1カップルから2匹の子供が育てば
個体数は減らない事となりますよね?
ということは、自然界では産み落とされた卵のほとんどが大人になれないというわけです。
たぶん小さい時期に食べられたり、あるいは正常に発生できず死んでいったりするのでしょう。
私たちの研究では卵を発生させてそのかたちの変化を調べます。
だから、途中で固定したりして発生をとめる事もありますが
そのまま幼生→成体へと育てる事もよく行ないます。
この、研究室である程度まで大きく育てた個体を戻してやれば
イモリの数を増やせるのではないかと思うのです。
そこで、実験に使う分には目をつぶって頂くしかありませんが
それ以外の卵はできるだけ育て上げて元の川に戻そうと計画し始めました。
昨年より兵庫県北部の豊岡市でイモリの採集をしています。
その子供たちを現在育てています。
ある程度大きくなったら元の川に連れて行こうと思っています。
鮭の稚魚を川に戻すのと同じ感覚で、
これを毎年繰り返せば少なくとも豊岡ではイモリの絶滅はないと思うのですが、
論理的に何かおかしいところはありますか???
はじめまして。
CDBで研究員をしております、たけうちと申します。
初期発生機構の多様性と進化に興味を持ち、主にポリプテルスという魚を使って研究を進めております。
いつも、とは申せませんが、楽しく拝見させて頂いております。
本記事のイモリ放流については、差し出がましいようですが意見させてください。
計画されているような放流は、地域集団における遺伝的多様性の低下が懸念されます。
少数の親イモリから増やした場合、当然その子イモリ達の遺伝的多様性は低いので、放流数が多ければ多いほど、また、(豊岡における)集団サイズが小さければ小さいほど、その集団自体の遺伝的多様性を劇的に低下させる原因になってしまいます。
もちろん、多数(多様)の親/少数の放流/地域集団サイズが十分大きい場合は、影響は少ないかもしれませんが、それぞれの条件をどの程度にしたら十分かといった調査は難しいのではないでしょうか?
さらにイモリの捕食性は比較的強いように思いますので、不用意な放流が個体数の増加を引き起こした場合、生態系への影響も懸念されます。
以上の理由から、子イモリの放流は十分検討された上で行われるべきであると思います。
こういった事の正否の判断は、実験のようにはいかなくてなかなか難しいですね。(いや、実験もそううまくはいきませんが…)
ご考慮いただけますよう、よろしくお願い致します。
どうもありがとうございます。
そういうことをまったく考えたことなかったので
なるほどなあって感心しております。
気になっていたのは
毎年、採集により数百匹の自然界での産卵を邪魔しているわけですから、
いくら使用後に自然界に戻したとしても
結果的に個体数の減少につながらないかなというところです。
本来なら当然自然界に産まれるべき個体を戻してやれれば
それで個体数の維持につながるような気がしたのですが
その数に関して考え足らずってことみたいですね。
もう少し調べてみます。
要は「増やしたい」というのではなく「減らしたくない」ということで
その為に何をしたら良いのか考えている訳です。
どなたか名案がございましたらご教授くださいませ。