あなたが見ている青と私がみている青は同じ色ではない!これは感覚的・抽象的な表現かもしれないが、生物学的(医学的?)にも同じことは言える。

人は、3種類のオプシンで色を感じている。3種のオプシンはそれぞれ認識する波長が異なる。赤色オプシンは563nm、緑色オプシンは543nm、青色オプシンは423nmの光を認識するとされる。この赤・緑・青が色の三原色(RGB)として知られているのだが、すべての色を作ることのできる不思議な原色があるのではなく、単に人間がその3色しか認識できないから三原色になっただけのことである。オプシンはタンパク質なので、変異が入ってアミノ酸置換があれば認識する波長が変わってくる。赤色オプシンの吸収波長が557nm(赤色)か552nm(橙色)に変異した男性がいる。赤色オプシンを持つ細胞から脳の特定の部分に信号が到達して「赤色」を感じている。みている色が赤色だから赤く見えるのではなく、脳の特定の領域が発火することで赤色と感じているわけで、色は脳が勝手に感じているだけのものであって、絶対的な赤色が存在するわけではない。だから、赤色オプシンに変異を持つ人は、橙色の波長の光を見て赤色に見えている。

青色オプシン遺伝子は常染色体に乗っているが、緑と赤のオプシンの遺伝子はX染色体に乗っている。赤色オプシン遺伝子はX染色体に乗っているわけだから、変異を持つオプシンと変異を持たないオプシンを両方持つ女性も存在しうる。この女性は一体どのような色覚を持っているのだろうかと考えるだけで頭がクラクラしてくる。

ちょっと調べただけで、赤色オプシンの変異が見つかるわけで、赤色オプシンには他の変異も存在しうるだろうし、他のオプシンにも新たな変異が存在するのは想像に難くない。というのも、オプシンの変異には淘汰圧がかかりにくい(多少色の見え方が変わったからといって生物としての生存に影響があるとは思えない)のだから。これら微妙な変異を持つ様々な人がいるとしたら、果たして皆が見ている色は同じなのだろうかと疑問になる。

たまに特殊な色使いの絵を描く人がいるのだが、もしかしたら、この人にはそれらの色が他の人たちとは全く違う色に見えているのかもしれないし、それが芸術につながっているのかもしれないと考えたら少し面白いなと感じてしまうのだが、実際のところはどうなのだろうか???

なんにしても、絶対的な何かが存在しているのではなく、自分の脳が認識したものがこの世の全てであって、脳に認識されないものはこの世に存在しないわけである。