お約束
未就学児に手品を見せて驚かせるという番組を見た。期待を裏切って子供たちはまったく驚かなかった。それをみて、「そらそうだよな」と感じた。
驚くためには、それを驚きと感じるための「前置き」「あるいは共通認識」がなければならない。お笑いの「お約束」と言っても良いだろう。以前にも書いたが、科学的な大発見もそれが「驚くべきものである」という認識がなければ「大発見」にはならない。
例えば、ハートのAを子供に見せる。そのカードを裏向きにして他の2枚のカードと共に机に置く。大人ならハートのAがどこにあるか理解している。そのカードを何度か動かして、「さあ、ハートのAはどこにありますか?」と聞くと、大人なら自分が目で追ったカードを指差す。そして、そのカードが違っていると驚く。しかし子供は、「ハートのAはどこにありますか?」と聞かれた時、何も考えずに適当にカードを指差す。だから、そのカードがハートのAではなかったとしても、ただくじに外れたくらいの感覚にしかならないから「驚き」はない。驚いてもらうためには、まず「なぜ」「何に」驚くのかについての共通認識がなければならないのだ。
セミナーやレクチャーをしていると驚いて欲しい瞬間がある。理解して初めて驚くことができるのだから、まずは理解してもらわなければ驚きには繋がらない。そういうとき、実験結果のスライドに行く前に、どういう可能性があるのかについて具体的に話すことにしている。「もし、この仮説が正しければ結果はこうなるはずであるが、もしこの仮説が間違えているとしたらこの実験の結果はこうなるはずである」という具合に話す。場合によったら、「どっちだと思いますか?」と手を挙げてもらったりする。要は、次のスライドが出る前に、どのような結果が出るのかについて具体的に頭に浮かべてもらうわけである。そして、次のスライドが出てくると皆さんは瞬時に理解してくれるから、その結果が一般常識から外れていれば驚いてくれる。驚かせたい気持ちが強ければ強いほど、その前には丁寧に説明し理解してもらわなければならない。
なるほど。私は老健の施設長として利用者(高齢の方)にマジックを見せたり、医師として学生、医療者に講演をすることでかあります。驚いてほしいときに反応がないとがっかりします。そうですね。あらかじめ参加者に予想してもらうことが自分の言いたいこと知らせたいことを伝えることに役立つのですね。気づかせてくださいましてありがとうございました。