大学院進学率

ブログ上で日本の研究についていろいろと思うところを書いているが、多くの有識者によってさまざまな議論がなされているように、異なる問題が複雑に絡み合っているのでひとつの原因に落とし込める問題ではない。すべてのことには議論する意味があるのだろうと思っている。ただ、橋本が目にする議論のほとんどは現役の研究者目線で語られていると感じる。現在の研究環境の問題点だけが論じられているように思う。教育の問題にしても、大学院生や若手研究者に対する話がほとんどだろう。まあ言えば、現状に対する不平不満の域を超えないと感じる。しかし、先日も書いたことだが、「生物が面白い」「不思議が好き」という基本的な好奇心や、その謎に立ち向かっていくための論理力を育む教育が子供の頃からなされていない限り研究者になろうと考える人口が減っていくだろう。同様に研究者になって成功すれば(ノーベル賞をもらうとかいう極端な成功ではなく普通に頑張れば)一定程度以上の待遇が保障されていなければ、特に有能な若い人が研究者の門を叩くとは思えないのだ。だから、研究環境や研究費の問題などを考える以前に、そもそも研究が魅力的であるという「洗脳」が子供のことからなされていない限り日本の研究には絶望しか感じない。

さて、ネットの記事で「理系に比べて低調な文系学部生の大学院進学について、文部科学省が現役学生の意向を調査したところ、進学を考えていない人の約48%が「就職が心配」を理由に挙げたことが分かった。理系学生で同じ回答を寄せたのは約26%だった」とあった。

文系の話は「そのとおりだろうな」と思う一方で、「理系では就職が心配」だと思っていないのか?と疑問に思ったが、この調査は大学4年生を対象としているということが分かりものすごく納得した。というのも、大学院の修士課程への入学者は少なくはないからである。研究者の道を進む気のない優秀な学生も修士課程までは進学する傾向が強い。というか、理系では大学院修士課程までがこれまででいうところの「大学」に相当するくらいの感じで進学率は高い。大学によるのかもしれないが、学部卒業=大学院進学だと考えてもあながち間違いではないように思う。問題は博士課程への進学なのだ。

この調査結果は文科相の諮問機関の部会で示され、委員からは「卒業後の雇用条件を向上させることが大切。産官学が一体になって取り組む必要がある」などの意見が上がったと記事にあるが、「何を今更」というのが素直な気持ちである。だって、この文脈で言えば、理系には何も問題がない(あるいは文系も理系に追いつけ)ってことなのだろうが、目先の問題だけをみて、その先が見えていない(目を逸らしているだけなのかも)議論に未来はないとしか思えないのだ。こんな程度の議論しかできない状況で優秀な若者が研究に向かうことはありえないと本当に思う。