試験問題

趣味の作問」にも書きましたが、知識を問う問題よりも考えさせる問題の方が好きです。この嗜好は、たぶん若い頃の経験によって成り立っていると思っています。

以下は大学院受験の話です。当時の大学院は定員が今よりもかなり少なく、さらに大学院自体の数も少なかったためかなりの激戦でした。これには一長一短あって、大学院に入学するのは大変でしたが、いざ入学すると競争相手の数が少ないので、その後の就職などは今ほど大変ではありません(とはいうものの、やはりいつの世も就職するのは大変なんですけどね)。ちなみに、当時の京大理学研究科の入試は一次試験で一般的な理科の問題が出題され、二次試験で志望する研究室が作った問題を解くという2段階で行なわれていていました。その二次試験の話です。

試験が開始され、問題を見た瞬間に凍りつきました。フットプリンティングの電気泳動の写真が7〜8枚あって、「この結果から考えられるDNAとタンパク質の結合様式について答えなさい」だけです。簡単なフットプリンティングの説明はあったと思いますが、その時の最先端の技術で、学部学生が知っているはずもありません。問題を見て「無理だ。まったくわからない」と絶望感に打ちひしがれました。その1問に2時間の試験時間が与えられていました。白紙で提出して退出しようかなとも思いましたが、それも癪なのでとにかく問題を眺めていました。ただただぼーっと考えましたが、きっかけもないのでほとんど妄想に近い状態だったと思います。そうこうしているうちにハッと何かを感じました。「え、もしかしたら」と思いました。その方向で考えていたらフットプリンティングの意味がわかりました。実験の意味がわかればあとはデータを解釈するだけです。とはいうものの、その「解釈」が出題されているわけですからそんなに簡単なわけはありません。たぶん先生はフットプリンティングの方法など受験生は当然知っているものだと思って出題したのでしょうが、ろくに論文も読んだことのない学部学生が最新技術を知っているはずもありません。試験開始から30分ほど経ってようやくスタートラインに立てたことになります。

さて、具体的な問題についてはここでは書きませんが、この問題はなかなかよく考えられていると思いました。実際に「すべての情報は問題文中に与えられている」ので、あとは考えるだけなのです。現在の高校生向けの問題としても成立すると思っています。この時の経験が今の橋本の考え方をつくりました。知識を問うのではなく考える力を問うことがより良い問題だとの考え方を持つに至りました。そういえば、入試の直前に研究室を訪れ、教授の先生に「入試のためにどんな勉強をしたら良いですか?」などというバカな質問をした時のこと、先生は「勉強なんかせんでもええ、考えたら解ける問題を出すから」とおっしゃっていました。血気盛んな若い頃の経験って自分の根っこになっていつまでも存在し続けるんだなあと本当に思います。そして、あの時の経験こそが研究そのものだとも思っています。共通テストの問題もこっちの方向へとシフトしてきたようにも思いますが、語句の丸暗記ではなくこういう問題を解けるような教育になってほしいと心から思います。