「理解」するには 1/2
人間は意味を持ったもの(すなわち記号)しか理解できないと言われます。だから、暗記の得意な人は語呂合わせをしたり何かに喩えたりと意味づけをして覚えるのでしょう。大学院に入って論文を読むようになりますが、最初はまったく理解できません。でも、周辺論文を読み重ねていくと、ある時からすんなりと読めるようになります。一つの論文には一つの知識が書かれています。だから、その論文を読めばその知識が頭に入ります。しかし、一つの知識だけだと意味付けすることが難しく、すぐに忘れてしまいます。しかし、別の論文に書かれている別の知識と前に読んだ論文の知識がつながるとそこに関係性(意味)が生じます。また別の論文を読んで得られた知識が過去の複数の知識と関係づけられると、関係性のネットワークは強固となり複数の視点から意味付けされるようになります。こうなるとそれぞれ個別の知識が互いに意味付けし合うことで理解されますし忘れなくなります。白地図に点を打ってもそれだけではただの点ですが、複数の点が打たれそれらが互いに架橋されることで意味が形成されます。ネットワークが複雑になればなるほど関係性が頑強になります。
単語にはア・プリオリに意味があるわけではなく、文脈によって意味づけされると言われます。周囲の状況や他の単語との関係、それまでの文脈や文章の構成などによって、同じ単語でも異なる意味を持つことはよくあります。だから、単語カードで暗記はできないと言われるのです。英単語を覚えるいちばんの近道は、その単語が使われている文章を丸ごと覚えることです。おそらくこれが最も効率がいい。橋本の狭い専門分野である両生類の原腸形成が書かれている教科書のページを見てみると、なんの脈絡もなくコーディンとかノギンとかディシェベルドとかいった遺伝子の名前が出てきます。どんな働きをしているのかについてほとんど触れられることもなく遺伝子名だけが突然現れます。これを覚えさせられたら生物が嫌いになるだろうなあと思います。
覚えるためには意味付けしないといけないわけで、ということは大まかで構わないから主となる要素同士を関連づけてざっくりとした地図を描く必要があります。全体の地図が描けたら、次に出てくる新しい単語をその地図の中に当てはめて関係づけることで覚えられるようになります。単語が増えれば関係性も増えますから理解も進みますし忘れなくなります。そのためには、片っ端から暗記するのではなく、まずは全体像を論理的に理解することが必要だと考えています。カンニングペーパーや作問などのところでも書きましたが、生命現象の本質を理解することでしょう。教科書はその存在意義から考えても、内容を理解させるものではありません。あくまでも「この程度の知識は必要ですよ」という範囲を決めている書物に過ぎません。だから、教科書を覚えるというのは非効率です。でも、授業は教科書に沿って進めるしかありません。だから、教科書とは別の関係性を脳の中に構築してやることで内容の理解を強固にする必要があると考えます。「DNAはチミンでRNAはウラシルだ」と覚えるのではなく「なぜDNAにウラシルが使われてはダメなのか?なぜRNAにチミンではダメなのか?」という理由を知れば、闇雲に暗記する以上に理解は進むでしょう。「なぜ2’がデオキシである必要があるのか?」の意味を知れば構造から遺伝子発現や進化の基本まで理解できます。こういう関係性が構築されれば、教科書に書かれている表面的な知識に意味が生じます。そうすることで覚えられるし忘れなくなるのです。入学試験にはただただ暗記することが必要なこともあると思います。それは入試の直前に一気に詰め込めばいいだけのことで、そういう「丸暗記」を日常的に(定期試験で)やる意味はまったくないと思っています。だからこそ、定期試験で学力を測るのではなく、それまで学習した知識を違った視点から問いかけることで新たな意味づけをすることが大切なのだろうと思っています。
(つづきます)