考える会(作問の会)

「考える会」で作問にも挑みます。ちょっとおもしろい生命現象に関する実験結果をもとに、その現象からどのような問題を作ることができるのか?です。「作問」だけならどのようにでもできますが、ここでの目的としては、その問題を解くことで(解けないにしても、解こうと努力したのちに解説を読むことで)生物学への理解が深まるような問題を作るにはどうすべきかについて考えます。教科書は単元ごとに分けて書かれていますが、互いに密接に絡み合う事象について仕方なく単元に分けているだけなので、実際の生命現象を理解する時には単元を超えた理解が必要となります。

今では、定期テストの問題をご自身で作成する先生も少なくなったと聞いたことがあります。面白い問題を作ることの大変さは並大抵の努力ではありません。たとえば「計算問題を入れよう」と思っても、細胞の大きさと重さを表示し、一般的なヒトの体重を示した上で、一人の大人はだいたい何個の細胞からなっているか?と聞かれても、これって生物の問題ですか?生物の知識なんか必要とせずとも解けますよね?ってことになります。そうではなく、計算をさせるのだけれども、その基本として生物学の知識を持っていないと問題の意味を理解できないような問題でなければ、「生物」の出題としておかしいと思います。だから、この題材のどの部分が生物として面白いのか?どこに焦点を当ててみることで教科書に書かれているどのポイントを(暗に)問うことになるのか?というところを議論したいのです。歴史の転換点になったような面白い論文(パラダイムシフトを起こした古典的な論文の方が良いと個人的に思いますが)を探してきて、その論文のキモになるポイントを押さえる。次に、その論文の実験データの中でどの実験のどの部分が画期的・革新的・独創的なのかを議論して、その点を問うことができるエレガントな問題を創作することです。実験結果には、本当はたいして意味はないのだけれど乗せておかなければならないようなものもあります。この実験結果がこの論文のすべてであると言える「固定観念を打ち破る」ようなものもあります。生徒さんに結果の意味を見出す力をつけてもらうことは、良問を解いてもらうのが一番だと思うのです。

例えば「この組織とあの組織が接触することで誘導が起きる」までは教科書に書かれています。でも、「誘導を受けた組織が、次に隣り合う組織の分化を誘導する」というところまで踏み込めば少し面白い問題なるでしょう。では、誘導された組織はいったい何になっているのか?を問う時に、例えば切片を切って構造を見るというのも重要ですが、その組織に発現している遺伝子の種類を見るということまでなんらかの形で問いかけられれば、生徒さんの理解は深まると思います。高校の教科書の内容を知らないので間違ったことを書いているかもしれませんが、発生過程である細胞へと分化したら、その細胞特異的な遺伝子(マーカー遺伝子)の発現が起こるということが教科書に書かれているとします。この知識を逆に捉えれば、「その遺伝子が発現している細胞は、特定の細胞種に分化していると考えられる」という考え方に立つこともできるでしょう。しかし、教科書にそう書かれていなければ、そういう理解にはならない。すべて知っていることなのに、それらを上手に繋ぎ合わせられない。問題を解くことによって、そういうところを柔軟に関連づけられるような考え方を習得できれば教科書の表面的な知識も一層深い知識に変換できると思うわけです。