考える会(細胞周期と細胞分化)

「考える会」では、他にもいろいろなテーマで議論を行なってきました。最近では「細胞周期と細胞分化」について考えております。「細胞周期」も「細胞分化」も教科書で習います。しかし、それらを同じ空間で互いに関係づけて考えることは普通はしません。

橋本たちの研究から、「細胞の分化・未分化の制御」に「細胞周期の制御機構」が密接に関係していることが示されてきました。この辺りについて生の実験データを示して考えていただきます。パッと気づく方もいらっしゃれば、変なところにトラップされてなかなか要点が絞れない方もいらっしゃいます。これはおそらく、長年生物学を高校生に教えてきたことによって頭の中にある種の「癖」ができてしまっているためだと思います。そして、この「癖」が治らないと解けない問題が最近の共通テストには出始めていると感じます。そこにある結果をそのまま受け入れることが重要で、脳みそに染みついた「癖」で意味付けしようとすると、その事実が持つ本質的な意味を見失います。単元の中で閉じようとせず、異なる単元の知見が互いに絡み合っていることを純粋に比較検討すれば新しい空間が広がってくると思いますし、それが「考える会」の目指すところです。

「原腸形成」では、実験や観察の事実を互いに関連づけることで新しい座標を見出していく作業をします。ここで求められるのは空間認識のような能力かなと思ったりもします。対して「細胞周期」の方は、空間的な発想ではなく、あくまでも細胞の中で起こっている現象を構築するロジックを考えていただくことで、やはり想像力と共に論理的に物事を構成する能力が求められると感じます。「原腸形成」の方は細胞が単位であり、「細胞周期」の方は分子が単位であるということになりますが、突き詰めればどちらも、先入観を取り除いて事実(実験結果)をありのままに受け入れたのちに見えてくる事実同士の互いに絡み合う姿や関係性を考えることです。

教科書にはアンダーラインを引くところなどないと言われます。教科書1ページを本当に理解するとすれば(その部分を説明するために真面目に文章を書こうと思えば)、おそらく10〜20ページ以上の文章になるでしょう。それを究極まで切り詰めたものが教科書なので、仮に下線を引くとすれば全ての文章に引くしかないわけです。逆に言えば、何十ページにも及ぶ文章の中の下線を引いたところだけを集めたものが教科書の記述ということになります。だから、教科書だけを見て理解するのはほとんど不可能なので、授業が必要だし参考書が必要であるということです。今、「主体的に考える」ことや、表面だけの暗記ではない「深い理解」が求められています。先生方も、これまでとは異なる授業の方法が要求されていますが、それをどうしたらいいのか見つけ出せずにいるようです。その解決になるかどうかわかりませんが、生命現象を素直み見つめ直すことでその現象を論理的に理解できないかという挑戦を「考える会」で行なっています。生命現象は教科書の単元の中だけで収束しません。異なる単元が絡み合うことで起こっているのが生命現象です。だから、生命現象を理解することが生物学の総合的な理解への近道だと考えてこの活動を行なっています。ちなみに、上に挙げた「細胞周期と細胞分化」について議論すると、細胞周期・分化・未分化・発生・進化へと様々な議論に至ります。「こんなところで繋がっているのか」に気づいた時、1段階段を登った景色が見られるのだろうと思います。