形態形成運動と遺伝子発現1

正しい形態形成には正しい遺伝子発現が必要である。

これはきわめて正しい論理である。

しかし、これが「正しい遺伝子発現が正しい形態形成を導く」のような理解となれば、

これは少しおかしい理屈になる。

であるにも関わらず、

この理屈を当然のごとく受け入れる風潮がいまの分子発生生物学ではなかろうかと感じる。

要するに、遺伝子発現制御機構が分かれば形態形成機構は自ずから理解されるとする思考法である。

 

発生過程で外的環境が変化すれば形態形成に異常が生じる。

たとえば塩濃度などの変化により正しい形態形成運動が行なわれないからで、

そこまでの遺伝子発現は正常に起こっているにも関わらず、である。

だから、私は常々「正しい形態形成が正しい遺伝子発現を導く」という言い方をする。

もちろん、形態形成と遺伝子発現は互いに依存しあっているので、

どちらか一方がすべてを決定するとは絶対に言えないのであるが、

でも、遺伝子発現を先に出すよりははるかに的を射た考え方だと思うのである。

 

先日、しっぽの形態形成に関わる論文を発表した。

そこでの発見は、しっぽの形成には正確な原腸形成運動のみが関与するのではないか?

だから、俗に言う尾部オーガナイザーのようなものの存在を考える必要は必ずしも無いのではないか?

ということである。

正しい形態形成運動によって出会うべき組織同士が出会い、

そこから次に繋がる「正しい」遺伝子発現が起こるという論理である。