叙述型のミステリ

翻訳物を読んでいると日本語ではできない書き方があるだろうなと思う時があります。

例えば、英語では二人称は必ずYouですよね。

でも日本語ではお前・あなた・先生など状況に応じてさまざまな言い回しができます。

そして、その言い回しでその人がある程度特定される時も多いと感じます。

女性特有の(男性は絶対にいわない)言い回しをセリフにするだけで

それは女性だと見当がつきますし、

年上なのか年下なのかについても大体分かります。

まあ、だから翻訳する時にはここを約し分けなければならないという技術もあるわけで、

だからこそ翻訳には外国語能力ではなく日本語能力が必要だと言われるのでしょう。

 

さて、例えば英語で書くことを想定すると、

10人の集まりでセリフ回しをしている時に

「・・・・と犯人は言った」みたいな表現はたぶん使用可能です。

それは、そのセリフを読んだだけでは犯人は特定できないからで、

もちろん映像化は(ラジオドラマ化も)不可能でしょうが、

文章ならこれができると思います。

ただ、日本語だとセリフだけで話者が特定される可能性が高いし、

特定されないようにするなら、そこに集まる人間のキャラクターが制限されます。

また、セリフだけでは特定できないくらいに似たキャラクターを集めると、

今度は人間の書き分けという難しい技術が要求されるかも知れません。

あるいはこれを逆手に取ってオカマキャラの人物を登場させることもできるかも知れませんが、

まあ何となく難しそうな気はします。

 

登場人物が特定できる集団に会話をさせ、

「太郎は言った」「花子は言った」・・・の中で「犯人は言った」と入れられたら、

読んだ瞬間に鳥肌が立つだろうなと思います。

もちろんだから日本語が劣っているなんて思っていません。

日本語だからこそできる技術のたくさんあるはずです。

ただ、その手の技術を駆使した小説は

おそらく翻訳には向いていないだろうなと思ってしまいます。