思想とは何か?

楠木正成の忠誠心を指して、

日本で初めての思想的に行動する人物というようなことを司馬遼太郎は言っていた。

後の世では武士道など忠誠心をあおる思想があらわれたが、

南北朝の頃には、己の損得だけが行動の規範であり、

楠木のような思想はけっしてなかったという訳である。

誰もが自分の権利、特に土地に関してのみに関心があり、

それを行動の規範としていた時代に、

負けると分かっていた湊川の合戦に臨んだ思想が

その時代背景としてはあり得ないというのである。

特に、天皇の家臣としての公家ならともかくも、

一介の地方豪族である楠木が天皇に忠誠を誓い命をも投げ出すという思想が、

あの歴史背景の中でどうやったら産まれるのか理解できないそうだ。

 

楠木は河内の山奥の出身であるそうだが、

そこに彼の書いたものが残っているらしい。

そして、その内容からかなりの教養を積んだ人物であることが見て取れることから、

中国などの道徳思想が幼い頃から刻み込まれたのかもしれないと司馬は想像している。

 

私などはどうしても現代の価値観で物事を考える傾向にある。

だから、忠誠心というものはそもそも日本人の体に刻まれたものだろうと

何の違和感も覚えることなく信じていた。

しかし、このように指摘されるとその不思議さに驚く。

まあ、たしかに佐賀鍋島藩の存在以前にかくのごとき忠誠心を礎とした武士道があったかと言われたら、

そんなことはないとは理屈では思うのだが、

でも、楠木の忠義はその事実をすら忘れさせる極めて「日本的」に感じられるのだ。

 

話は変わるが、我が家の初詣は湊川神社に参る。

言わずとしれた楠木正成をおまつりしている神社である。

湊川の合戦で命を落とした楠木の墓があった場所と聞く。

境内に入ってすぐ右手には楠木の墓所がある。

徳川光圀の筆跡を墓石に見ることが出来る。

明治維新以降に建立された神社なので歴史は浅いのだが、

私にはとてもご利益があるような気がしている。

 

なんだか題名の「思想」とは全く関係のない文章になってしまった。

まあ、私にはよくあることなのでお許し願いたい。