科学技術
科学技術基本法を改正して「科学技術」を「科学・技術」と表記するように求める勧告を
日本学術会議は菅直人首相にしたそうである。
この件に関してはかなり以前から私も気になっていたし、
いろんなところで書いたり話したりして来たが、
まったく偉い人には届かない考えなのだろうと思っていた。
だから、今回の提言は非常にびっくりした。
と、詳細を読んで行くと、
勧告は「科学技術」を「科学に基礎付けられた技術」の意味で使われがちで、
技術重視になると指摘。短期的に結果を求める成果主義に偏り、
将来につながる科学の基礎研究が軽視されることを懸念しているとある。
たぶん同じ事を考えているのだろうが、
私は純粋に「科学」と「技術」を同じ文脈で語られる事に違和感を覚えている。
極論すれば「科学」とは誰の為でもなく何の為でもない、
己の好奇心を満たす為に行なうものであると思っている。
それに対して技術とは、必ず「何かの為」という大義名分がある。
人類の発展の為、病気を治す為、砂漠化を防ぐ為・・・
あらゆる目的がそこにはあるし、逆に目的のない技術はないだろう。
私が学生の頃、文系では文学部で理系では理学部だけが
「自分のため」の研究ができるところだと教えられた。
これが極論である事は重々承知しているが、
いいたい事の本質は理解できるし共感もできる。
要は、医学部も薬学部も工学部も農学部も
その語義からして存在の目的がありそうだが、
理学部だけはそれが何か分からない。
理学部の研究が、「結果として」人類の役に立つ事はあるだろうが、
それを目的として研究を進めていないというのが本音のところだろう。
蛇足だが、上で極論と書いた理由は、
医学部でも「基礎医学」と称して基礎の生物学的研究を行なうし、
理学部でも直接何かの技術を開発する研究を行なっている事実を
無視するつもりはないという事である。
さて、お国の考える「科学技術」とは
質的にまったく異なる二つのものを「理系」という訳の分からないくくりで
「文系」出身のお役人が決めたように私には感じられてならなかった。
だから、たとえ間にナカテンが入ろうとも一緒にはして欲しくなかったのだが、
ナカテンを入れて、あくまでも異なるものだと主張した事は意味があると思う。
あとは「理科離れ」という言葉が「理系離れ」という意味に使われないように、
この考え方が教育課程に入って来て欲しいものだと願う。
ちなみに、方法論こそ違えどその立ち位置から見れば文系の研究だって立派な科学である。
要は、科学的思考を踏むかどうか、そこが重要なのである。
したがって「理科離れ」を憂うよりも
「科学離れ」すなわち科学的に物事を考える力を鍛えないことを憂うべきであろう。
この視点に立てば「理系」「文系」などというくくりが何の意味も持たない事は自明であろう。