脊椎動物と無脊椎動物4「増殖と分化」
古くから発生学の研究者は「増殖」と「分化」は互いに相反するものであると考えて来ました。その分子的な基盤はよくわかりません。私が分からないだけなので,実は既に良く分かっているのかもしれませんが,とにかく私は知りません。ただ,感覚的には何となく分かる気がします。金子邦彦さんは細胞を人工的に作って何かを研究している人です(非常に素晴らしい研究らしいのだが,これまた私の理解のレベルを超えているのでここでは語れません)。彼の言葉を中村館長が教えてくれたのですが、「・・・でも,分裂はしないんだよね」ってことのようです。いろいろと細胞を作る方法はあるのでしょうし,それなりに何となく形になることもあるのでしょうが,同じものを二つに複製することは実は非常に難しいらしいのです。
分化しつつある細胞はその新しい細胞内環境を分裂後にも作らなければならないのですが、幹細胞のようにいつまでも同じ環境を複製し続ける条件ではない,新しく出来上がった環境を忠実に再現し複製することが難しいというのは感覚的に理解できそうに思います。実際に、増殖とは特に増え続けていなくても,細胞周期を維持する状況にいれば良いという感じですが,この細胞周期を止める分子が働き始めると、分化のスイッチが入り、あるいはアポトーシスと呼ばれる細胞死のスイッチが入ることが知られているのです。アポトーシスとは「プログラムされた細胞死」と称され、たとえば分化してはならない場所や時期に分化を始めた細胞に働きかけて悪さをする前に殺してしまう意味も発生の文脈においては持っているので、アポトーシスが起こることもある意味では分化の指標として間違いないでしょう。だから、細胞は分化の状況に入ったら,それが一度落ち着いて複製可能な状況になるまでは細胞分裂を起こせないと考えられるようです。だから,細胞を増殖の状態に維持していられるのか,それとも増殖を一旦停止して分化の状態に入らせるのかの制御は、発生現象においては極めて重要であると考えなければなりません。そして、その増殖と分化の制御が進化的にどのように変化をするのかによって、新しい生きものが成立したという見方もできうる訳です。
(これはすごく不完全な内容なので、いつか密かに書き直しておきます)