琥珀変異?

遺伝学の言葉で、「アンバーミューテイションamber mutation」があります。直訳すれば「琥珀突然変異」とでもするのでしょうか。最近ではほとんど耳にすることもなくなったのかもしれませんが、私くらいの年代の生物学者にはかなり馴染みのある言葉です。

(ほんの少しだけ専門的になりますが)遺伝子配列中のあるコドンが突然変異によって終止コドン(UAG, UGA, UAAのどれか)になる変異があります。終止コドンになることで、翻訳が終了するためにその遺伝子の機能が抑制される突然変異です。これをナンセンス変異(nonsense mutation)と呼びます。ちなみに、突然変異によってアミノ酸が変化するものをミスセンス変異(missense mutation)と呼びます。最初に見出されたナンセンス変異はコドンがUAGになるもので、これをamber mutationと名付けました(ここまでの文章がわからない人も無視して次に読み進んでいください)。ではなぜ、amber(琥珀)と名付けたのですが、この変異を発見した人の名前がBernsteinで、ドイツ語では「琥珀」という意味であることから英語のamber(琥珀)と当てただけで、実際の「琥珀」とはなんの関係もありません。面白いのは他の終始コドンになる変異のそれぞれocher(オーカー)とopal(オパール)と色の名前が名付けられています。これらは最初に発見・報告された終始コドンがamber(琥珀色)だったために、こう名付けられたということで、オーカーとオパールには特段の意味はありません。

そういえば、分子生物学の技術でサザン(南部)法・ノザン(北部)法・ウエスタン(西部)法があって現在でも普通に使われる技術です。DNA・RNA・タンパク質を電気泳動したあと膜に移して次の反応を行なう方法の名前なのですが、なぜ方角の名前がとられたかというと、最初にDNAを膜に移す方法を報告した人の名までがSouthernだったことから、その後RNAやタンパク質を同様に膜に移した方法を方角にしただけということで、amber・ocher・opal同様に西洋人のユーモアが感じられる名付けだなあと感じますね。