カーテン
やはり覚えていなかった。
輪郭は頭にあったし犯人も漠然と覚えていたが、
この空気・雰囲気はまったく残っていなかった。
特に今回は「スタイルズ荘」の直後に読んだものだからかも知れないが
読後にすごい衝撃が襲ってきた。
たぶん反論はたくさんあるだろうけど、
最近読み続けてきた私にとってはこれぞクリスティって気がする。
最初に読んだときは、これを読むにはあまりにも若過ぎたのだろう。
その頃の私は、パズルを解くようなミステリが好きだった。
だから、この小説のことが印象に残らなかったのだろうか?
この小説はたしか絶頂期に書かれ
死後に発表するようにと封印されていたように記憶している。
そもそもクリスティはトリックメーカーではないだろうが、
この小説もトリックなど目立ったものは何もない。
しかし、超絶トリックの小説よりもいまの私にはしっくりくる。
年を取ったからかもしれない。
作中のポアロに感情移入してしまったのかもしれない。
理由はよくわからない。
でも、なんだろう?なんかすごいわ。
大体、こんな物語がミステリになりうるはずがない。
しかし、意味は違うかもしれないがこの小説を知らない人はいないだろうくらいの
クリスティの代表作のひとつになっていると思う。
読んだことなくても「ポアロ最後の事件」くらいは耳にするはずだ。
でも、その有名さが逆に真価を隠しているような気もする。
どうしても「アクロイド」「オリエント急行」「そして・・・」の極端と比較してしまう。
飛び道具の印象は捨ててじっくり読み込んだら、
たぶん上記三作品よりも深いものがあるように私には思えるのだ。
で、タイトルの「カーテン」は・・・・なるほど、そういうことですか。
文庫の解説に山田正紀が「戦争小説」と書いている。
彼の意見には全面的には賛同できないが、
なんとなくこの小説にある暗さが戦争にありそうな気はする。
戦時中、戦後の平和を想像しながら書いたとしても、
現実が暗いわけだから平和にも暗い影を残すみたいな感じだろうか。
純粋ミステリなのだがそれだけではない。
なんか読後感がすごいわ。