尾部オーガナイザー
これまでずっと「頭」の形成についてこの欄では考えてきました。
その理由は、脊椎動物にとって頭部構造が系統上で特別な意味を持っているからで、
特に脊椎動物の発生(個体・系統問わず)に興味のある橋本としては
ある意味で当たり前のことだったと思います。
原口背唇部は、移植されたときの活性がその時期に応じて異なることが知られております。
すなわち、初期原腸胚で移植すると頭部が、
中期原腸胚で移植すると体幹部が、
後期原腸胚で移植すると尾部が誘導されるわけで、
この事実から、オーガナイザーにもその活性に応じた機能領域が存在し、
それぞれ、「頭部オーガナイザー・体幹部オーガナイザー・尾部オーガナイザーと呼ばれます。
私たちは「頭部オーガナイザー」についていくつかの疑問を呈し
「本当はこうじゃないか?」と新しいモデルを提案をしてきました。
で、今回は突然「しっぽ」の話です。
胞胚の屋根と床を接触させることで尾部の構造形成が誘導されることを
今年に入って報告しました。
この時期の胞胚腔の屋根は多分化能を持つことがわかっています。
胞胚腔の床が接触している屋根を中軸中胚葉へと分化誘導し、
誘導された中軸中胚葉が隣接する未分化外胚葉(胞胚腔の屋根)に神経を誘導します。
その後、この誘導された中軸中胚葉と神経が尾部を作っていくことになります。
この現象を通じて私たちは、
「尾部の誘導にはオーガナイザーのような魔法の領域が必要なのではなく、
必要な組織が単に接していることが重要なのではないのか?」と疑い始めました。
別の言い方をすれば、原腸形成運動の終了期の卵黄栓を閉じる時期に
将来尾部が形成される辺りで神経・脊索・内胚葉が初めて接することになるのですが、
この接触を、原腸形成初期に人為的に行なわせたから
尾部が形成されたのではないのか?ということです。
実は尾部オーガナイザーはイモリで行なわれた実験であり、
ツメガエルには尾部オーガナイザー活性を持つ領域が知られておりません。
で、この「胞胚期に胞胚腔の屋根と床を接触させる実験」を行なっても
イモリでは尾部の形成が起こらないことが分かりました。
これらの事実から、原腸形成運動の違いにより、
イモリではたまたま後期原腸胚の原口背唇部でこの接触が見られ、
「尾部形成を誘導できる活性」ではなく「尾部を形成する性質」が
その次期その場に生じただけなのではないのか?と考え始めているのです。
頭部オーガナイザーの由来については再考が必要だと
これまでの研究から私たちは考えておりますが、
今後は尾部オーガナイザーも考慮に入れて考え直すべきなのかも知れませんね。