熱燗
アルコール飲料はよほど変わったものでない限りはどれでも美味しくいただける。だから、「とりあえずビール」は私にはない。和食が多いので、どうしても日本酒をいただく機会が増える。寒くなってきたらやはりお燗をつけていただきたい。
話は変わる。アメリカにいた頃、日本料理店に行って日本酒を頼むとき冷やすこともせず燗をつけるわけでもないお酒のことを「室温」と呼んでいた。英語でroom temperatureだ。日本で単純に「ひや酒」あるいは単純に「ひや」と呼ぶもののことだ。日本では燗をつけるかつけないかの2種類しかなかったので、熱くしない方を「ひや」と呼んでいた。アメリカから日本に戻ってきたころ、アメリカには3年3ヶ月しかいなかったのでその間に時代が変わったわけではなかろうが、居酒屋で「ひや酒」が通じづらくなっていた。「ひや酒ちょうだい」というと冷酒(冷蔵庫で冷やしたもの)を持ってこられる。冷酒を置いていない店では「ひや酒はありません」と言われる。いやいや、燗酒があるのにひや酒がないはずはないだろうと思うのだが、強い意志を持って「ない」と主張される。そこで「いやいや、違う違う。ひや酒というのは・・・」と話そうものなら、すごく面倒な顔をされたりもする。で、次は「室温で」ということとなる。すると「常温ですか?」と聞き返される。確かに「室温」は英語の直訳なので日本文化には馴染まない。だから、次からは最初から「常温で」と注文するようになる。ただ、癖は簡単には抜けないので「ひや」と言ったり「室温」と言ったりしてしまうことも少し続いた。
「お燗をつけて」も通じない言葉になってきている。「燗酒」も、必ずと言って良いくらいに聞き返される。「熱燗」というと普通に通じる。「燗」=「熱燗」なのだ。「ぬる燗」も「上燗」も存在しなくなったようだ。個人的にはぬる燗が好みである。熱々の燗酒はあまり好きではない。面白いのは「ぬる目に燗をして」とお願いすると、厨房に向かって「〇〇さん、熱燗二合で」と叫ばれる。