コメンテーター

評論家やコメンテータって大変だなって思う。

私たちみたいに「だって素人だもん!」って逃げを打てないんだから。

それでお金をもらっている以上は言葉に責任を持たないといけない。

まあ、それを生業としている以上は仕方のないことかもしれないけどね。

ただ、その責任ってのも突き詰めたらなにかよくわからないのだが・・・。

 

で、最近何かの番組で某コメンテーターが叫んでいた。

「放射能で傷付けられた遺伝子は子孫に受け継がれる」という趣旨の記事を相手に、

「これは嘘っぱちである!」と大声でわめいていた。

視聴者に向かって「皆さん、こんなことはありませんから!」とも言っていた。

大声をだし、過激な攻撃的言動でわめき散らすのはこの人のキャラクターかもしれないので、

この行為をどうこう言うつもりは全くないのだが、

ご指摘の記事の内容は、「大間違い。嘘っぱち」と叫ばれるほど間違ってはいないと思う。

これまた、その記事を私が読んでいないので正確な議論ができるかどうか分からないのだが、

生殖系列の細胞がもつ遺伝子に傷がつけば、その傷は間違いなく子孫に受け継がれるはずだし、

これは一般論としては極めて正しい議論だと思う。

そして、放射線は、体細胞であろうが生殖細胞であろうが、

標的を選ぶことなく影響し、遺伝子に傷を付ける可能性をもつ。

もちろん、体細胞、例えば皮膚や筋肉などの細胞、の遺伝情報に変異が導入されても、

それは、例えばガン化してその個人に影響はあり得るかもしれないが、

子孫に受け継がれることはないから、

すべての遺伝子の傷が遺伝するというのはもちろん間違いである。

ただ、おそらくその記事ではそう書いてはいないはずだ。

あくまでも、体細胞の遺伝子が傷つく環境であれば、

同じ確率で生殖細胞の遺伝子も傷つく危険性をはらむってことだろうと思う。

そして、その「遺伝子の傷」は子孫に間違いなく受け継がれる。

だから、この意味においてはこの情報は決して間違えていない。

生殖細胞と限定していないから記事は正確ではないとは言えるのだが、

その言い方が過激に否定し過ぎているように感じられる。

何が言いたいかといえば、過激に否定するあまり、

視聴者は遺伝子に傷がついても子孫には反映されないという

誤った情報を受け取る可能性があるからだ。

放射線が危険かどうかという議論は別で、

この程度の放射線はまったく問題ないとする議論も他方にはあるが、

その問題と混同すべきではなく、

あくまでも傷ついた遺伝子が子孫に伝えられるか否かという問題に関しての答えは、

可能性として「その通り」と言うのが科学的に正しいのだろう。

二つの説があるということを説明する、あるいは、体細胞と生殖細胞の違いを説明し、

例えばガンにかかったからと言ってガン(の体質)が子孫に影響することはない

ってことを説明するのなら構わないのだが、

片方の説を取り上げて「間違いだ!!」と主張することは問題ではなかろうかと思う。

両論併記しろ!!とまで言うつもりはさらさらないのだが、

間違いだというのであれば、言い切るのではなく説明しなければならないと思う。

 

話は少し変わる。

ツメガエルにおいて原腸陥入は起こらないと私が主張していることは

この欄の読者ならご存知だろう。

両生類の初期発生において原腸陥入が起こると言う「事実」は百年ほど前から言われている。

戦前より生物の教科書には当然のごとく出ているし、

今でもそれが真実であると教科書には記載されている。

しかしそれは間違っていることをツメガエルを用いて私は明らかにした

(実はこの表現自体は正確ではないが、それをやり出すと議論が別の方に行くので流して下さい)。

これがもう10年ほど以前の話である。

この話は、私がすべての実験データを紹介しながら話をすると、

誰からも否定されないばかりか、話した全ての人が納得してくれる。

これは手前味噌ではなく、本当の話で、

なぜならば、私が行なった実験が極めて単純であり、

実験結果の解釈に異論が出るはずもない「事実」であること、

もちろん世界中の研究室で再現可能である上に、

現実的にこれまでさまざまな論文で指摘されてきた矛盾を説明できるからである。

実際に、私が行なった実験手法を知ったある研究者は

「何でそれをいままで思いつかなかったのか?」とお褒め?くださった。

間違いなく中学・高校の理科室でできる水準の実験なのですからね。

 

しかし、それにもかかわらず、現時点で私の成果を知っている研究者の論文であっても

ツメガエルでも陥入するとの立場で議論が進んでいる。

もちろん世界的に見れば「陥入する派」が99%以上を占めるだろう。

この「陥入する」説に立てば、実際の実験データが説明できないし、

非常に不思議な前提を立てないと議論できないのだが、

そこに目をつむって陥入説をとっている。

 

以前から書いているように私はなにも自説を主張したいと思っているのではないのだが、

間違った前提から引き起こされる矛盾をとりあえず見なかったことにしている状況が、

科学的に見て本当にこれでいいのかなあ?と少しだけ感じるのだ。

正直に申せば、個別には認めてくれるし理解してもくれるのに、

その人が論文や学会で発表する時のイントロには「陥入する」説を採用することに、

以前は欲求不満を感じていた時もある。

でも、もはや私レベルではどうしようもないし、

他人の意見には構わずに自分の実験を進めている。

ある人から、今の世界の大御所たちは「陥入する」として勉学を積み

実績を残してきたわけで、今さらそれを覆す説を受け入れられないのだろうと言われた。

まあそうなのかもしれないが本当のところは私には分からない。

なんにしても、原腸陥入に関して教科書やあらゆる媒体を通じて勉強しても、

よほどの数奇な運命に導かれない限りは「陥入しない」説にはたどり着かない。

だから、それが今の若者の間でも「常識」としてまかり通る。

たぶん「陥入しない」なんて言おうものなら奇人変人扱いであろう。

だって、「先生」と呼ばれる人たちだって「陥入する」と信じているのだから、

学生レベルの人間が「陥入しない」とでも言おうものなら

たちどころに否定されるに決まっていると思う。

これが現時点での「常識」であろう。

まあ、これはこれで仕方ないと思うし、

友人の西松さんからは「マジョリティーシフトは必ず起こるよ」と慰められてもいる。

 

しかし、そのコメンテータも、何か遺伝子についた傷は遺伝しないという話をどこかで聞いたのか、

あるいは何かで読んだ複数の知識を混同したのだろうが、

それを言い切れるところが「すごいなあ」と思う。

もしかしたらそのコメンテータの取り上げた記事の内容に問題があったのかもしれないが、

その記事の内容を知らない私がコメンテータの話だけを聞いて判断したところ、

その記事自体に間違いはないと聞こえてしまう。

間違いがないことを指して「間違いだ!」と否定してるように聞こえてしまう。

 

私は、自分の専門であってもなかなか言い切ることはできない。

だから「〜と思う」「〜だと感じる」を多用する傾向にある。

自信を持っている実験結果であってさえも「〜である」とはなかなか言えない。

だから、他人の「説」を書いても、それの真偽や是非を論じることはできない。

自分の専門であっても容易く是非を論じられないのだから、

まともに勉強をしていないことの真偽・優劣・・・何でもいいが、

その手の判断が私ごときにできるはずがない。

まあ、コメンテータの方とはこの辺りの性格の違いなのだろうね。

あるいは「コメンテータ」と言われる職業の人の宿命の様なものなのだろうか?

いやあ、絶対に私にはできない仕事だわ。

 

血圧の話、血糖値の話、BMIの話、コレステロールの話、これまでにいろいろと書いてきている。

BMIは25を越えても肥満ではない(と言われている)!とか、

高齢者の高血圧・高血糖はむしろ健康にいいとかね。

もしかしたらバッタものの類いの学説なのかもしれないけど、

どこかで見聞きした情報の、まあ意図的に現在の趨勢とは異なる議論を取り上げて、

見方を変えれば景色が変わるよと「かたち」の話を書いているので仕方ないかな。

個人的には特にどの説に与するつもりもなく、

(というか、与する能力を持ち合わせていないだけなのだが)、

ただ、「常識」と思われていることとは異なる話を題材にして

「見方」とか「考え方」とかの議論をしているだけにすぎないのだ。

でも、肥満学会や脂質学会(そんな学会があるのかどうか知らないが)の方から見たら

私がコメンテータの話を聞いて不思議に感じるくらいに私はトンデモなヤツなのだろうなあ。

 

まあ、何にしても生殖系列の遺伝子に傷が入れば子孫に伝わるのは事実だと思いますよ。

だから、遺伝子の傷が子供に伝わらないと言うのは厳密には正しくないでしょう。

じゃなかったら、突然変異も、進化でさえも起こらなくなっちゃいますから。

だからこそ、原発の事故収集の現場にこれから子供を作る若い人ではなく

子づくりも終わった世代の人が行く方が良いとする議論には賛成なのだ。

ただ、以前にも書いたと思うが、

私は、あるい程度の放射線にはそれほど神経質になる必要はないと感じている。

科学的根拠は皆無だが(本当は少しあるのだがあまり言うと紛糾する恐れがあるので)、

年間10ミリシーベルトくらいなら神経質になり過ぎない方が良いと思う。

これは学生の頃にある放射線医学の教授から言われたことをいまだに信じているだけなので、

現在の知見でどこまで正しいのか分からない。

もちろん専門家の間でも議論が分かれているだろうし、

ずぶの素人の私が議論できるとも思えない。

まあ、この「神経質になる必要はない」という立場は、

結論的には先のコメンテータと同様の立ち位置になるのかも知れませんね。

ガン化するかしないかなんて数十年後にしか統計的事実として解析できないし、

子孫への影響なんて考えたら百年規模の話になると思う。

数十年・数百年経って、「あの時の対策は正しかった(間違っていた)」って言われるのでしょう。

私たちの子供の頃には世界中で核実験が盛んで、

大気中にシャレにならないくらいの放射性物質が存在していたと言われています。

「雨に当たると禿げる」って真面目に言われてた時代だったし。

で、それから40年が経ちガンが増えたかと言うと・・・分からないんですね。

たしかにガンは増えているけれど、寿命も延びているわけで、

それまでは別の病気で死んでいた人が

その病気では死ななく長生きしたので、

結果としてガンにかかる数が増えただけってことも言えるかもしれないし、

今では発ガン性の恐れから規制の対象となっている食品添加物がその時代にはたくさん使われていたし、

さらには公害で空気や水が一番汚れていたのも私たちが子供の時期だったと言われているし、

その頃の放射能汚染だけを考えた場合に

現時点でのガンの発生率との直接的な因果関係がどれだけ分かるのか個人的には疑問です

(実はちゃんと研究がなされていて分かっているのかも知れませんが)。

まあ、因果関係が分からないのだからこそ、用心するに越したことはないのかも知れません。

だったら、放射線はもっと恐れなければ・・・・何を言っているのか分からなくなってきた。

 

ひとつだけ、おっそろしいことがある。

私は大きなくくりで生物学者と言われる職業だが、

発生学、それも形態形成機構を専門としており、

扱っているのも両生類であるイモリとツメガエルだけである。

もちろん専門の論文はできる限り読み続けているが

それ以外の内容に関してはかなり古い知識のまま止まっていることがたくさんある。

で、恐ろしいこととは、

そのコメンテータが実は私よりもはるかに専門的な勉学を積んでおり、

発ガンや放射線障害に関する最新の知見にも明るい人だった場合に、

これだけ偉そうに書いたことがすべて間違いってことになりかねないことである。

ガン関係の論文なんて最後に読んだのがいつか思い出せないくらい以前だし、

そもそもガンや放射線の専門誌なんて見たことすらない。

遺伝子や放射線、あるいはガンの基本的考え方はそれほど変わらないだろうからたぶん大丈夫だろうけど、

もし間違っていたら、コメンテータさんごめんなさい!