発生の砂時計モデル

先週の金曜日に阪大で開かれたセミナーに行ってきた。

神戸理研の入江さんが砂時計モデルについての話であった。

まったく新しい現代的な視点で砂時計モデルを切り取った方法に感心した。

詳細をここで書いても仕方ないので、ものすごく大ざっぱに紹介しておくと、

マウスやチック、ツメガエルにゼブラフィッシュといったモデル動物を用い、

その卵からの発生段階ごとに発現する遺伝子を比較検討し、

どの生きもののどの段階の胚で発現する遺伝子が

別の生きもののどの発生段階で発現する遺伝子とその構成が似ているのかについて調べたということだった。

その結果として、やはりすべての生きものに関して咽頭胚と呼ばれる時期が一番似通っていることが分かり、

それはとりもなおさず、砂時計モデルを証明したこととなるってことであった。

 

これに関して考えた時になにが言えるのかだが、

まず、受精卵をスタートとして発生をみることが正しいのかが気になる。

ある種の生きものには卵からかなり軸性を持っているものがある。

極端な例ではショウジョウバエでは背腹・前後・左右じくが卵に存在する。

ツメガエルやゼブラフィッシュでは動植物軸があるが、マウスの受精卵に軸性はない。

というか、マウスにいたっては受精卵の大半は胚とならないので、

それを他の卵と同一視していいのか?

これは入江さんの発表に対するクレームではなく、

あの成果をどう考えるのかについての考察なのだが、

要するに、原腸形成過程によって生じる咽頭胚をつくるために

ある種の生きものでは卵形成の過程で実際のパターン(軸)形成を行なっているのに対し、

別の生きものでは、それを発生過程で行なうということは、

同じものを作り上げる過程で同じ遺伝子の働きを必要とする場合であっても、

その遺伝子の働く時期がまったく異なることは普通にあり得ることとなる。

母性因子として卵に積まれている場合もあるだろうし、

それがタンパクとして存在する場合もmRNAとして存在する場合もあるだろう。

発生のすごく初期に発現する場合も、

初期発生過程であっても比較的後期に発現することもあるだろう。

だから、発現している遺伝子のプロファイルが異なることは言わば当然という気がするのだ。

また、咽頭胚よりも後期になると、

それこそ種ごとに多様なかたちを作り上げる時期になる訳だから、

当然その時期に働く遺伝子も多様になることだろう。

 

しかし、咽頭胚で起こる現象は、微妙な差はあれ、それほど種によって差はないとも思える。

神経のパターンを決める時期だし、神経堤細胞が動いて頭部を作る時期でもある。

体節ができ、鰓がさまざまな器官の元を作る過程でもあるし、

ここの過程で働く遺伝子が基本的には共通であることも知られている事実である。

だから、咽頭胚期に発現する遺伝子のプロファイルが種を越えて似ていることは

それほど驚きに値するように思えないのだ。

 

要するに、咽頭胚より前の過程では、結果として同じものを作るのだが、

それに関わる素過程の時期はそれぞれに種特異的であるということであり、

したがって、関わる遺伝子が発現する時期は、卵形成期から初期発生のあらゆる時期に至る

種によって多様であるということであり、

咽頭胚期以降では、まさに種によって異なる多様性を導く為の発生を行なう過程であって、

ここで働く遺伝子は互いに異なっていても構わないというわけで、

これと咽頭胚期で発現する遺伝子群のプロファイルが似通っていることとは

「質」の異なる議論にならないかということだ。

 

しつこいようだが、これは入江さんの仕事へのいちゃもんではない。

というか、この議論ができるのも入江さんの仕事があったからで、

逆にとても納得してその成果を受け入れられるのである。

で、このような視点から脊椎動物の初期発生を見た場合に

何か新しいものが見えて来ないのか興味がつきない。