細胞分裂による分化制御の正体

先日の思考から派生した戯言である。

結局「分化」って、発現している遺伝子群のセットを、今とは異なるセットに変える作業と言い換えていいかと思っている。だから、分化に際してはマーカー遺伝子だけが発現を始めるのではなく、分化に伴って新たに発現を始める数ある遺伝子の一つをマーカー遺伝子と(研究者が勝手に)しているだけで、状況の応じては別の遺伝子をマーカーにしたほうが適切な場合もあるかもしれない。で、発現する遺伝子群のセットを変更する場合には、転写因子が必要というのは当然あると思うのだが、それよりも、それら新規遺伝子群のクロマチンを緩める作業が絶対的に必要となるはずである。ゲノム(染色体)上に点在する特定の遺伝子群のクロマチンを緩めるとともに、今まで発現していた遺伝子群のクロマチンを閉じる(締める)作業も必要であり、染色体の状況を全体的に再構築する作業、いわゆるクロマチンリモデリングというやつ、を「分化と呼ぶ」と言っても言い過ぎではないだろうと思っている。細胞周期を制御する因子のいくつかはクロマチンリモデリングに関わることが知られている因子との相互作用が言われているし、なによりも転写因子が発現しても下流遺伝子の発現が行なわれない大きな理由の一つに、「クロマチンが緩んでいない」ことが挙げられると橋本は考えている。この考え方に立つと、G0期はクロマチン再構成に必要な細胞の状態とできるだろうし、G1期はクロマチン再構成を抑え込む時期(分化をさせない時期)と言っても構わないだろう。だから、G1↔︎G0の制御が分化の制御に密接に関わっているということだろうという考え方になるわけである。まあ、普通に細胞分裂を繰り返している細胞は、染色体の複製をし、細胞分裂の準備をして細胞(染色体)を二つに分けてから、次に起こる染色体の複製に備えることを繰り返すわけで、その途中で染色体の再構成などできるはずもなく、逆の言い方をすれば、クロマチン再構成をしている最中にDNA複製が始まったら大変なことになるので、クロマチン再構成とDNA複製は物理的に隔離しておかなくてはならない。これがG0期の本質的な意味ではないかと思っている。だから、分化せずに細胞周期だけを止めている細胞はG0期にいるのではなくG1停止しているだけだと橋本は考えている。ただ細胞周期が止まっている細胞を見ても、それがG1なのかG0なのかはわからないということになる。

ということで、これは以前からこの欄で何度も書いていることだが、どの因子が関わって細胞周期を止めているのかが重要なのではなく、細胞周期を止めるか動かすかの細胞の判断が本質であって、そこに関わる因子の種類は「たまたまそれだっただけ」と考える傾向が橋本には強い。どの因子が関わろうが最終的にはCDK活性を抑え込むことをしているだけなので、その分子機構にはあまり深い意味はないんじゃないか、である。もちろんこれはかなり概念的な物言いで、違う因子が働いているからには細胞周期に対して異なる制御をしている可能性はあるかもしれない。これは大きい(概念的な)ところから見るか、小さい(具体的)なところから見るかの違い、あるいは現象から見るか分子から見るかの違いに落とし込むべきことなのだろう。