メートルとフィート
いまミステリの翻訳本を読んでいるのだが、翻訳本を読んでいていつも感じることがある。それは習慣の違いをどのように訳出するべきかである。たとえば距離の問題。「目撃者は6フィート離れていた」と書かれていた場合に、どれだけの人が大体の距離感を把握できるのか?と考えてしまうのだ。私はといえば、6フィートならなんとなくわかる。これはアメリカ人男性の身長を話すときに6フィートと言われたら大体180cmだと知っているからと、feetは足のサイズだからだいたい30cmくらいだと想像できるからなのだが、でも、では15フィートと書かれたら咄嗟にはその距離感を把握できない。「6フィートの2.5倍だから4〜5メートルくらいかなと暗算では計算できても、文章を連続して読んでいる最中に感覚的にその距離感が理解できるかといえば、それはできない。いちいち文脈から外れて、しばし停止して距離を暗算してから文章に戻ることとなる。だから文章への集中が途切れてしまう。インチもそうだ。「1インチは2〜3cmくらだったかな?」くらいの感覚でしかない。フィートの1/10ですらない。ヤードってのもゴルフなんかで耳にするが、メートルとあまり違わなかった記憶はあるがよく理解できていない。
で、翻訳者はどうするのがいいのだろうかと考える。たぶん正解はない。フィートのまま書くことを良しとする人もいるだろうし、メートルに換算すべきと考える人もいるだろう。私は、ミステリで正確な距離(長さ)が重要であるときは違うが、基本的には大体の距離感がわかればそれでいいと考えるので、6フィートなら(約)2メートルと訳してほしい。「目撃者は6フィート離れていた」は2メートルとすることで、その人物との距離感が把握できるからだ。この文章で必要な情報はそれだけだと思うので、そこを正確に「1.8メートル」とか、もっと正確に「1.82メートル」と書かれる意味はほぼないと思うし、「6フィート」では瞬時にその距離感を把握できないから読書という意味においては害でしかないように感じる。
同様に、メジャーリーグ中継で球速をメートル換算して実況してくれるが、それが正しいと個人的には思う。「100マイル(毎時)」と言われるよりは「160キロ(毎時)」と言われる方が直感的に理解できる。まあ100ならパッと暗算できるかもしれないが、95マイルと言われたら直感的に理解するのは(私には)難しい。ポンドもそうだしオンスもそう。世界中がメートル法になってくれればこういう面倒臭さは無くなるのだろうが、それは傲慢というものだろう。
ちなみに、「真夜中」と訳されているときにもちょっと止まってしまう。midnightと英語で言えば、それは午前0時のことである。決して日本語で連想する「真夜中」の意味ではない。midnight hoursとすれば日本語の「真夜中」に近いかもしれないが・・・。同じような感じで気になることはいくつもある。また、英語といっても米語と英語でも意味は異なることがいくつもある。この辺りを考え始めるとスラスラと読むことができなくなる。悪い癖だなあと思う。