発生現象を素過程に分けてみる

これも話し言葉では頻出する考え方です。

 

両生類の様々な種をみると

たとえば原腸形成過程を明確に定義できないことに気付きます。

原口が現れるときから原口が閉じるときと言ってしまえばそれで良いのかも知れませんが、

原口出現時期の遺伝子発現パターンが種により異なっていたり、

原口がなかなか閉じないままに神経形成過程が進行したりすることも珍しくありません。

だから、原腸形成過程の時間軸にそった比較解析がかなり難しい・・・

というよりは厳密には不可能だとしか言えないわけです。

そこで考えたのが、原腸形成過程をひとつの現象に落とさず、

複数の素過程からなる発生現象であるとする思考方法です。

 

それぞれの素過程は発生のどの時点で起こっていても構わないと思っています。

それが卵形成過程で起こっていても構わないし、

発生の比較的後期で起こっていても構わない。

現実に、たとえばマウスの受精卵はすべてが個体になるわけではない。

3回分裂したあとの8細胞のうちのひとつの細胞が個体になるに過ぎず、

またその細胞自体はかたちの情報をその時点では全くもっていないことが知られています。

しかし、極端な例ではショウジョウバエなどは卵に頭尾・背腹・左右の軸があり

産み落とされた卵のかたち自体にショウジョウバエのかたちが見てとれます。

ショウジョウバエほど極端ではありませんが

カエルだって卵には動物極・植物極という軸がすでに備わっているわけだし、

そう考えたら形づくり自体がおかあさんのお腹の中で卵が作られるときから始まっていると考えて

まったく何も不思議ではないということになります。

すなわち、体軸形成という「素過程」が受精前(卵形成期)に起こるのか

それとも受精後に起こるのかは種によって選択可能であるということでしょう。

素過程がいつどこで起こるのかは生物種により様々であって

もっと言えばかなり自由だろうと思います。

 

ただし、脊椎動物においてはこの自由度にきつい拘束があるようで、

それが砂時計のくびれの段階だろうと思えます。

すなわち、どの素過程がいつどこで起こっても基本的には構わないのだが、

体制を決めるいくつかの「素過程」は

間違いなく砂時計のくびれの時期までに完了していなければならないということです。

もっといえば、おそらくは原腸形成運動完了(いつ完了か決められないと言ったばかりですが)時点で

大きな意味で基本的な発生の素過程が完了していて、

原腸形成や体節形成などと部分的にオーバーラップしながら、

神経堤の形成と移動による頭部形成過程が起こり咽頭胚が生じるといった感じなのかなと思っています。

 

 

問題は、この「素過程」をどう考えるのかということで、

どこまで分けられるのか?分けていった時に、

「これ以上分けられない単位」がどこかに存在するのか?に関しては

今後の課題ということになりそうです。

ただし、ここをあまり厳密にしすぎると重要な視点を失う可能せいもありますから、

ある程度は緩やかな考えを進めることで良いのだろうと思っています。