原因と結果

地球温暖化の話で、一方の議論が大きく広まっているので目立たないみたいだが、

科学的には二つの議論が同時になされている。

地球が近年温暖化しているという事実と二酸化炭素が増えている事実に関してである。

よく耳にするのは温室効果ガスとしての二酸化炭素であり、

二酸化炭素が増えているから温暖化しているという議論だ。

しかし、温暖化が進んだ結果として二酸化炭素が増えているにすぎないとする議論もある。

そして、こちらの議論も科学的にはそこそこ正しいようにも思えるのである。

 

要するに、二つの事実をどう関連づけるのかっていうところである。

どちらを原因と考え、どちらを結果として論を深めるかによって、

議論が正反対にも進むことがあるのは当然のことである。

この両方の議論は、科学的に見るとどちらの言い分も理解できるような気がする。

しかし、これが政治的(?)に見ると一方の意見しか見えないこととなる。

こういう場合には、政治的あるいは経済的に誰かが得をする仕組みがあって、

その方向へと世論を動かす傾向が見られるらしいのだが、

その水準の話になると私にはお手上げである。

何にしても、二酸化炭素の増加が温暖化の結果だとすれば、

二酸化炭素の排出を抑えても温暖化はとまらないこととなるわけで、

現在の世界が必死になって取り組んでいる(ように見える)政策は

完全に空振りに終わるということだ。

単純に、熱を出す行為がすべて地球を温めているということもできるかもしれない。

火を起こさなければその熱量は発生しないわけである。

この考えに立てば石炭や石油などの化石燃料だけでなく、

原子力発電だって熱を発生させてタービンを回し発電するわけだから

決してクリーンエネルギーとはいえないだろう。

そうなればまさに風力や地熱など、新たに熱を発生させる必要のない発電が

地球温暖化には適していると言えるだろう。

問題は、地球が温暖化しているという事実(注)と二酸化炭素が増えているという事実が

因果関係としてどのように結びつくのかである。

 

さて、このような大規模な話ではなくとも原因と結果の問題は日常的に存在する。

例えばコレステロールなどは、コレステロール値を下げるだけなら今や薬でできる。

問題がコレステロールが高いという事実にあるのか、

体全体の問題のひとつの結果としてコレステロール値が高くなっているのかが重要なのだ。

コレステロールが高いこと自体が重大な問題なのであれば、

それを直接的に引き下げる薬というのは大きな意味をもつだろう。

しかし、もしもコレステロール値が身体の根源的な問題のひとつの指標にすぎないとすれば、

その数値を薬によって覆い隠すことで重大な身体の異状を見落とすことにもなりかねない。

検診で数値に異常がなければ、医者がそれ以上は病気を疑うことをしないのだから。

同様に、肝臓に良いという食材や薬なども、

本当に「肝臓にいい」のか、それとも「肝機能の指標である何らかの数値に効果がある」のか、

その関係が逆転すると何の意味もなくなる。

これに関しては、逆の例になるが実際には我々が目の当たりにしていることがある。

それは、何らかの数値が異常に高くても健康に何ら問題がない人がいるということである。

この説明はおそらく現代医学では付けられていない。

ただ、考えられることは、結局のところその数値だけを見たら一般人と比べて突出していても、

その他の要素との関係性を含めた全体が、身体という「かたち」にとって良好であれば、

それはそれで健康に影響しないということなのかもしれない。

かたち論でも書いたことだが、老人にとっての高血圧はむしろボケ防止になるし、

余命には影響しないことが知られている。

これなども、若い身体の各要素にとって血圧が高いという事実が及ぼす影響と、

年を取ってきた人の身体を構成する要素が高血圧にさらされた時の影響が異なることを

単純に指し示していると考えることで話は終わるのだろう。

こうなると、特定の数値の増減を気にしすぎることは大して意味がないとも言えるかもしれない。

 

我々科学者の日常的に行なっている行為というのは、

大きな見方をすれば、たくさんの事実の中での原因と結果を見極めているだけとも言える。

そこの順番を見誤ると、その先の仮説が完全に間違うこととなるのだ。

 

これは、普通の言葉として因果と言い表し、

科学者だけではなく日常的にも重要な判断であることは言うに及ばない。

 

注:現在の状況をして、地球は温暖化しているのではなく寒冷化しているとする説も立派にある。