つらつらと2

初期原腸胚ではオーガナイザーに、神経胚・咽頭胚では脊索前板と神経堤に発現するhairy2という遺伝子を留学中に見つけた。普通ならこの遺伝子がどのような分子機構で発現制御され、どのような遺伝子の発現に影響を与えるのかについて解析する。もちろん私もそのような研究の進め方をしたのだが、本当の興味はそこにはなかった。要は、その遺伝子がオーガナイザーに、脊索前板に、神経堤に発現する「意味」を知りたいと思った。詳細は原著論文、あるいはその現象に触れた文章を探し出してお読みいただくしかないのだが、ざっくり言えば、hairy2は細胞周期を維持し細胞分化を抑制するために発現していることがわかった。ここから、神経堤細胞は、外胚葉が神経堤細胞に特異化するのではなく、細胞周期を維持することによって卵が持つ分化全能性を維持した結果であるとする仮説を提唱することとなった。これも、面倒な分子機構や新しい遺伝子の発見など必要なく、これまでの生物学の概念ですべてが理解できる簡単な仮説であるのだが、この論文が引用される際にはこの点には一切触れられず、ただhairy2という分子の働きの文脈でのみ語られる。この論文で主張したいのはそこではないのに・・・。