脊椎動物と無脊椎動物「個体発生における前適応」(3/6)

あらゆる生きものにおいて様々な遺伝子の働きが解析されています。たとえば細胞外に分泌されて他の細胞の分化などに影響を与える分子,その分子を細胞膜上で受容してそのシグナルを核に伝えるしくみなど、脊椎動物以外にもショウジョウバエや線虫など様々な生きもので分子レベルでの働きが分かっています。だから、「ショウジョウバエの研究で脊椎動物の発生が分かったことも多い」と言われるのですが,この言葉を額面通りに信じようと私は思わないのす。確かに特定の分泌タンパクは特定の受容体に結合し,それが細胞内の特定のタンパク質に働きかけてその細胞の遺伝子発現を制御すること自体はショウジョウバエでも哺乳類でも原則的に同じことは言えるでしょう。しかし、その意味はおかれている環境において決まる訳ですから、分子機構が共通であることと,それぞれの種における個体発生の意味が共通であることの間には何の意味も無いと感じられてなりません。たとえばwntfrzに結合して、dshGSK3が関与し・・・なんて言うところの分子同士の関係性が強固に形成されていれば、それを解体するよりも,そのかたち(分子同士の関係性そのもの)を利用する方が理に適っている訳ですが,それはそのかたちそのものをたまたま利用するだけの話であって,他の生きものにおけるそのかたちの意味を違う生きものが持たなければならないことを意味するのではありません。あくまでも,その「かたち」の前適応と考えるべきものなのだと思うのです。この視点に立たないと,必然的に分子そのものに意味付けをしてしまいます。「ショウジョウバエでこうだから・・・」とカエルで考えてしまうようになります。これが個体発生を考える上では絶対的にマズいのではないでしょうか。個体の外部形態にも,分子の働きにも前適応があると同様に,分子のカスケードや関係性にも前適応があったって構わないし,むしろ無いと考える方がおかしいのではないかと私は思います。