MBTの意味

MBTと細胞の分化については以前に書いた。内容的には同じなのだが、ちょっと違った視点から書いてみよう。

脊椎動物の誕生の一つのきっかけは大量の卵黄を獲得したからだと考えている。肺を作るために必要な細胞質の量が等しいと仮定すれば、獲得した卵黄の量によって卵の大きさは変わってくる。卵が大きくなれば、数回の分裂で生じる細胞(割球)の大きさは大きいままである。ホヤの原腸胚は110細胞である。ナメクジウオの原腸胚の細胞数は文献の記載を見つけられなかったが、聞くところによるとせいぜい多くても数百ということだ。対して脊椎動物の原腸胚の細胞数は数万である。この違いが原索動物と脊椎動物の本質的な違いに繋がっていると私は考えている。では、なぜこのような違いが生じてきたのかだが、それはおそらく大量の卵黄の獲得によって卵が大きくなったためであろうというのが私の考えである。もちろんそれ以外にも理由はあるのかもしれないが、卵の大型化は大きな理由であると思う。

大型化した卵は、卵割の結果として100個程度の細胞数になった程度では、まだまだ細胞は大きくて、原腸形成運動などのドラスティックな形態形成運動を行なうことが物理的に困難であることは想像に難くない。だから、形態形成運動が行なえる大きさになるまで一気に卵割を進める必要がある。その結果として原腸胚の細胞数は数万にまで達した。この細胞数の爆発的な増加が神経堤細胞の獲得を可能にしたと私たちは主張している。

進化上のこの変化に、新しい遺伝子や分子機構の獲得は必要ない。すでに有している「細胞周期の制御機構」の調整によって十分に達成可能である。極端に言えば、分化する前の細胞分裂の回数をほんのちょっと増やすだけで済む。適切な大きさの細胞になるまで卵割(細胞分裂)を止めずに進めるだけでいい。ここまでで私の言いたいことはご理解いただけると思う。そう、特殊な制御機構を獲得してMBTが生じたのではなく、受精後一気に卵割を継続するというこのやり方を採る限り、MBTは必然的に生じるしかなかったのだ。